再 生 と 循 環

 

多目的リカレント構法

 

MSR-Multi purpose Structure for Recurrent construction &Mountain Side Residence(※Recurrent:再現する、循環する。Residence:居住)

上記タイトルに示される如く、「MSR」は2つの意味を持ちます。

 

一つは環境にやさしい構造-多目的リカレント構法です。

 

一つは自然との共生です。

 

 リカレント構法が目指すところは、循環型の建設です。環境に低負荷の建設です。現在リサイクル法で、コンクリート、鉄、木材のリサイクルが義務づけられています。しかしリサイクルするにしても相当のエネルギーを必要とします。リユース(再使用)への道が望まれます。すなわち、「組立→解体→格納→組立」、「拡張⇔縮小」の循環です。そのためには組立、解体が容易であることが必要です。また環境に低負荷であるためには、使用する構造材の質量は少ない方が良いのです。

構造は大きくは、架構(骨組)と基礎に分けられます。架構として、ラーメン構造、立体トラス構造、壁式構造などがあります。現在、MSRが提案しているのは立体トラス構造です。その利点は、一つは、部材に曲げの力が働かないから部材質量はラーメン構造よりも少なくてすむということです。また、立体トラスを3角形だけの構成にしておけば、軸材どうしの接合は、1本のボルトでできます。このことは、構造物の組立、解体を容易にします。立体トラスの基本単位は、3角錐状単位架構です。それは4つの3角形によって構成される4面体架構です。立体トラスは、今まで主として屋根などの構造として使われてきました。それが一般の建築の主たる骨組として使われることが少なかったのは、その斜めの軸材が内部空間に支障となるケースが多かったからだと思います。これについては後述します。

 

 傾斜部材、上弦材となる軸材どうしをピンまたはヒンジ接合して3角錐状単位架構を構成します。この単位架構を斜め横、上下に連接、拡張。これを構造骨組として種々の建造物を提供できます。今までは、ボールジョイントなどを用いて立体トラスを直接組み立てることが主流で、前記単位架構どうしを連接するという発想はほとんどありませんでした。それは、一つには前記したように、立体トラスが主として屋根の構造骨組として使われることが多かったため、地上で組み立てて吊り上げる方法で済んだからです。また一つには、ボールジョイントなどの接合装置では、それらを相互に接合することが難しいからです。

 

 前記3角錐状単位架構どうしを接合して、それを縦(斜め)横、上下に連接することができれば、いろいろな可能性が出てきます。傾斜地に樹木伐採、足場などを組み立てずに人口地盤、立体道路等が造れます。3角錐状単位架構内に袋体を入れ、水上輸送して、それらを連接、水中または水上に構造物を造ることもできます。宇宙空間に、3角錐状単位架構を連接して宇宙ステーションを造ることもできます。その他いろいろな可能性が考えられます。

       
図1 図2 図3 図4

 その接合装置を図1~図4に示します。図1、2が示す接合装置については、特許公報;特許第3867128号に記載されています。円盤等の接合基材にヒンジ付きボルトと締め付けナットを装着しておき、これを用いて軸材どうしを接合、3角錘状単位架構を構成します。円盤等の接合基材どうしを、球体を介して接合。これによって、3角錘状単位架構どうしを接合します。同種別件で特許第3944552号があります。図3、4が示す接合装置は3角錐体を、その4面をそれぞれが持ち、その中心を共有するように4等分割して接合基材(ジョイント)をつくります。この接合基材の前記3角錐体の面であった面を加工して円形としても良いのです。前記接合基材を介して、軸材どうしをピンまたはヒンジ接合して3角錐状単位架構等の構造ユニットを構成します。前記接合基材どうしを前記3角錐体になるよう合体し、接合することによって構造ユニットどうしを接合します。これにより、構造ユニットを縦(斜め)横、上下に連接することによって構造体(立体トラス)を構成します。(特願2007-185142)。軸材には、鉄骨、木材、RC(鉄筋コンクリート)などを用いることができます。傾斜部材(支柱)が内部空間にあって支障をなす場合は、傾斜部材の床に対する角度を大きくして上弦材をトラス梁とし、角錐状単位架構を所定の間隔で配置することもできます。

 

 柱、梁を剛接合したRC造ラーメン構造が、現在最も多く用いられている構造方式です。しかし、この方式を循環型の建造物に用いることは困難のようです。柱、梁の接合がコンクリートと鉄筋で一体化された剛接合である故、地震に対しては有利である反面、解体となると全面的に破壊するしかなく、構造体の再使用は今のところ不可能です。プレキャストコンクリート(PC)造が、その接合部が開発されて、容易に組立て、解体できるようになれば、PC造は循環型の建造物になり得ると考えられます。

 

 すべての建造物が循環型である必要はない、ストックされるものとフローされるものに使い分け、ストックされるものを長寿命化、フローされるものの循環を考えればよい、という考え方があると思います。構造体の環境負荷も配慮しなくてはなりません。最も環境負荷の少ないのは、木造です。木構造で大規模な複層型の建造物は、現在のところごくわずかです。それも循環型となるとほとんどありません。

 

 間伐材などを使って組柱、組梁をつくり、それらどうしを容易に組立て、解体のできる方法で接合して構造体を造る。そういう視点があっても良いと思います。環境配慮は、構造だけでなく、非構造部材、設備機器にも必要であることは、言うまでもありません。


   
図5 組立基礎平面図 図6 組立基礎平面図

 次に基礎について記したいと思います。基礎も循環型とするためには、組立、解体が容易でなければなりません。それもできることならクレーン等の重機を使わずに済ませたいものです。一つの例を図5~6に示します。基礎を3角錐体として、これを4つの3角錘状ブロックに等分割、場合によっては、さらにそれらを3つに等分割して12のブロックに分け、製造、運搬、現地で組立て(ボルトまたは連結パイプで接合)、元の3角錐体の基礎を造るというものです。


     
図7 組立基礎(3角錐)平面図 図8 a-a断面図 図9 a-a断面拡大図

 図7~9は、別な組立基礎の実施例です。コンクリートブロックなどを敷き並べ、その上にTバーでできた格子を載せ、さらにその上に3角錐状の単位架構を載せています。最上部3角錐状単位架構の3本の傾斜部材は伸縮可ですので、基礎の沈下対応ができます。また、この3本の傾斜部材にダンパーを格納しておけば、免震基礎になります。アースアンカーで地盤に連結することによって、風による浮き上りを抑止します。アースアンカーは、地質調査用の小型軽量ボーリングマシーンで埋設可能です。この基礎とアースアンカーは近々特許査定される見込みです。

 

 現在の老朽化した建築物、現在の構造基準を満たさず耐震補強が必要な建築物、現在のニーズに合わなくなってきている建築物、これらの建築物の再生を図ることも大事なことです。建築物を建替えるよりも改修(造)した方が、はるかに環境負荷が少なくてすみます。建築物を使いながらの改修が望まれます。弊社は、耐震補強を含む改修構法として、外フレーム構法(ダブルスキン工法)を薦めています。これは、既存建物の外側に柱、梁で構成されたフレームを配置して、既存建物とスラブ(床)でつなぎ、地震に対する耐力を外フレームに持たそうというものです。この構(工)法は、外部だけの工事ですみますから、使いながら施工ができます。また、窓にブレースをはめ込んだり、壁を設けたりして窓を遮蔽することはありません。外側に新しいフレームを取り付けることによって建物のイメージを更新し、現在のニーズに合わせて内部を改造することもできます。その実施例として、京都大学の総合人間学部、大阪大学の理学部を後に掲載します。


 
イメージ図

 Mountain Side Residence

のMountainは、山野、海浜などの自然を象徴しています。

 

 冒頭頁の「ごあいさつ」で、梅原先生の建設に対する発言をご紹介しました。建設が自然を破壊してきたことは事実ですが、山野、海浜が大半を占める国土においては、田畑を除いた平地に人々は集中し、多くの人々は狭小な居住空間を強いられていることも事実です。これは、理由としては都市集中があります。また一つは、山野などの傾斜地には、居住し難いというところがあります。ここでは、後の問題について考えたいと思います。山野などの傾斜地の利用についてです。情報技術と物流機構が進化した現代、山野、海浜(日本列島の海浜の長さは約35000kmです。これは地球の周長40000kmの85%に相当します)に分散居住しても不便はなく、むしろ自然共生の恩恵を受けることができます。問題は、いかにして自然を破壊することなく、快適な居住ができるか、です。

 

 その方法として、

 1)土地の改変を伴わない交通システムの採択

 2)土地の改変を伴わない循環型の設備システムの採択

 3)土地の改変を伴わない構法、建設システムの採択

 があると考えます。

 これについては特願2001-178723、特願2007-7605、特願2006-287081等で提案しています。紙面の都合上、主として3)の構法について記したいと思います。この構法については、架構、基礎について、すでに記載してきました。土地の改変を伴わない、または最小限の改変であるという視点から補足したいと思います。

 

 1)3角錐状単位架構の接地する傾斜部材の上下の接合を自由に角度調整のできるヒンジ接合としています。傾斜部材(支柱)は先端部と軸材がねじ接合され、伸縮、長さ調整ができ、1本または複数の軸材の組合わせでもって任意の長さにできます。したがって標準化された軸材と接合装置で3角錐状単位架構は、土地の改変なしに自由に接地できるのです。

 

 2)前記3角錐状単位架構の連接によって、交通手段としての立体道路、軌道等が土地の改変なしに築造できます。

 

 3)設備配管を前記立体道路、軌道等に沿わせることによって、土地の改変なしに設備配管を布設できます。

 

 4)3角錐状単位架構どうしの接合が容易にできますから、足場等はほとんど不要で樹木の伐採も最小限ですみます。

 

 5)交通システムとして、斜行エレベーターを傾斜地に沿って高架とします。立体歩(車)道は等高線状に設置します。斜行エレベーターと立体歩(車)道の交差点において、若干の樹木栽培、土地改変が伴う可能性があります。この地点に貯水池または貯水槽を設置し、雨水の流れを止めることによって土砂くずれ等は防げます。

 

 6)基礎は沈下対応、アースアンカーで地盤に連結もできますから最小限の大きさで済み、組立式ですから重機の必要もなく、重機進入道路のための土地改変はありません。

 

 以上の構成によって、山野、海浜に自然を破壊することなく居住することが可能です。RC造在来工法で建設するにしても、土地の改変は最小限にすべきです。後に掲載の和泉市の「まなびのプラザ」では、丘陵地の改変をほとんどしていません。

 環境にやさしいシステム、構造、建築は環境と共生できるのです。